「ムカデヤさんに行ってきて」
小さい頃、よく祖母に頼まれたお使いだ。ムカデヤは、僕が生まれ育った街の小さな着物屋。自転車で10分程度の商店街にあるその店に祖母の着物を持って行き、「アライハリお願します。」と言って渡し、アライハリが終わった着物を受け取ってくるというお使いだった。
ムカデヤは小上がりがあり、そこにはいつも品のいい女性が優しく微笑みながら座っていた。その当時、アライハリの意味もわからずに、祖母に言われたその呪文のような言葉だけを忘れないようにしていた。
このお使いは、僕の楽しみでもあった。もちろんお小遣いがもらえるということもあったけど、大好きな祖母の役に立てて、その呪文によって祖母の着物がピッとのりが効いて、新しく生まれ変わるのを見るのが、不思議でもあり、心地が良かった。
そして、20数年が経ち、僕は洋服に携わる仕事をすることになった。それからはじめて「アライハリ」が「洗い針」と知った。「洗い針」の本当の意味や工程を知ったときは、
その呪文の奥にある文化、考え方、思想に深く感心した。それと同時に自分が携わる服に関してもそうありたいと思った。
気に入って買った服に関しては、長く長く生活や旅、そして思い出を共にして、長く長く付き合いたい。友人は「服が溶けるまでも身に付けたい」といっていた。
今年から、Needle Worksということを始めた。これは、お気に入りの服を長く着てもらえるように、「補修、補強、リメイク」をしていくサービスで、それをすることによってより愛着が出てくると感じている。まだ、まだ試行錯誤のサービスだけど、小さい頃の祖母との大切な時間とそのお使いを思い出しながら、続けて行きたいと思う。
photo & text : Hayato Takasu