GOOD SWELL JOURNAL / 植物の心

ハイラインの植物

「ハイラインは、是非散歩した方がいいよ。」
9月に、dosaの展示会でニューヨークに行った時、クリスティーナからそう言われた。 早速その翌朝、散歩に出掛けてみた。ハイラインとは、1934年から1980年まで使われていたマンハッタンのロワー・ウエストサイドの高架貨物線跡を空中緑道として再利用し、一昨年にオープンして話題になっている公園だ。公園といっても線路跡なので細長く、現在の全長は1.6kmですべて完成すると2.33kmになるそうだ。 ガンズヴォート・ストリートにある南端の入口から、北に向かって歩き始めることにした。
階段で遊歩道に上がると、最初に目に飛び込んでくるのは、ハドソン川だ。何度となく見ている風景だが、5-6m上がっただけで、いつもとは違う視線になり新鮮だった。地上から少し浮き上がって歩いている感覚が、空中遊泳をしているかのようだ。ゆっくりときょろきょろしながら歩き始める。ニューヨークの街並、旧ナビスコ工場の貨物ホームにあるインスタレーション、有名なデザイナーが設計した建築物などとても興味深い景色が続く。10番街を展望できるウッドデッキでは、出勤前と思われる女性が、イエローキャブやトラックを見下ろしながら気持ち良さそうに朝食を食べていた。
この公園の魅力は、いつもと違う視線からのニューヨークの風景だけでなく、廃線の線路をそのまま残し、荒廃していた時のような植物が植栽されている緑道でもある。このような緑道が出来たきっかけは、地元住人の2人、ロバート・ハモンドとジョシュア・デービットだ。2人が実際に廃線となったこの線路を歩き、20年近く放置され野生に返った線路上の雑草や草花、ふぞろいな木が生い茂っている風景に感動し、生育していた野草に敬意を表してなるべくそのままの状態を残そうとしたからだ。現在、この公園にある植物はほとんどがふぞろいな草地の植物で、リアトリス、ヤグルマギク、ウルシやスモークブッシュなど。その風景は、どこか自分の中の記憶にある風景のようで、派手さはないが心に寄り添って懐かしさを感じさせてくれた。 ゆっくり歩いて30分、まだこれからの発展を期待させる30丁目の終点に到着した。
この公園は、色々なことをリバリューしていると本当に感心してしまった。それは、リサイクル、リユースと行った再利用という考え方のもう一つ先で、視線を変えて物を再評価し、それに別の要素を付け加えることで新しい価値を創造するということ。使われなくなって取り壊しまで決定していたやっかいものの高架線は、遊歩道という価値を付け加えて素晴らしい公園に生まれ変わった。地上5mという視線が、見慣れた高層ビルや、古びたビルさえ初めて見る景色に変えてしまった。空中遊泳気分を味わうことができる散歩は、地上にある現実を俯瞰してみることができた。また、ハイラインが出来たことでこの地域の犯罪率が激減し、付近の不動産開発が活発になってこの地域にも新しい価値が生まれ始めているという。
線路上に放置されて野生化したふぞろいな植物が、2人の住民をインスパイアーしそこから人々の意識を変える公園ができ、そして街の価値さえも変えてしまった。
「ハイラインは、是非散歩した方がいいよ。」本当にそう思った。(ht)