GOOD SWELL JOURNAL /

LOW KEY PEOPLE #27

葉山で暮らし、絵を描き続けていた女性がいた。出会ったのは20年近く前だ。ご主人と共に酒飲みで、一緒に晩酌するのが大好きだと、何度か誘われたこともあった。ご主人とは学生時代からずっと一緒で、その続きのまま暮らしているような夫婦だった。彼女の絵は、油絵具を塗り重ねたような抽象画で、それが高く評価されることはなかったが、地道に描いては、個展などを繰り返していた。葉山の暮らしなどを文化的に纏める作業などもしていて、その仕事を通じて彼女を知った人も多くいると思う。いつも明るく、スーパーなどでもよく出会い、また、ときどきひょっこりと仕事場にも顔を出し、世間話などをしていた。彼女が癌で臥せっているという噂を訊いたのが1年ほど前のことで、調布辺りの病院にいるとのことだった。そのときは、さほど病気が重いとは思わなかったのだが、昨年の暮れ、彼女が亡くなったという話を訊いた。それからしばらくして、スーパーでご主人に出会った。ふたりが暮らしている家を知らなかったから、亡くなったことも知らずにと声を掛けると、意外に明るい笑顔で、ありがとうございますとの返事が返ってきた。きっと、それまでの苦労からようやく解放されたような気分だったのだろう。それ以上、話を交わすことができなかったが、きっと、彼女も安心して、彼のもとを離れていったのだと思う。葉山に住んで、顔見知りが亡くなるということがこれまでなかったのだが、こうして近い人がいなくなると、寂しいというより、自分が住み暮らす地域がどんどん自分の人生にとって重要な場所だったということがわかる。なんとなく住み始めて、もう20年以上も経ってしまった。地に足のついた暮らしが、こうしたことでも感じる。余所では知ることのない人たちとの出会いがあり、その中のひとりとして自分もまた生きているからで、ある意味、地域の仲間になっている証拠でもある。彼女の冥福を祈りたい。(h.n)