GOOD SWELL JOURNAL /

音楽と服

先日、あるミュージシャンの仕事に少しだけ携わる機会があった。同じ「モノ」を作るという作業でも、音楽というジャンルは今までには全く関わりがなかったので、本当にちょっとしたこと(ツアーのTシャツ作成)の手伝いだったけれども、音を作るという職業の彼女との会話は興味深かった。
打ち合わせをしている時に、彼女がアルバム制作のマスタリングという作業をNYで行ったという話題になった。音楽に関して全く無知な僕に彼女はマスタリングとは本を作る作業で言えば印刷と同じようなこと、と説明してくれた。その作業によっては作品の出来上がりが大きく左右するらしい。彼女がマスタリングを依頼した人はその世界ではとても有名な方で、その人のスタジオでは美しい音が溢れていたそうだ。本当ならばその音をみんなに聞いてもらいたいと彼女はそのスタジオでの音を思い出しているように話していた。そして当たり前のように呟いた。「最後に音が消えていっても、その音の分子がそこに残っているんです。」
ひとつのことに真剣に向き合い、取り組んでいる人にとっては、本来なら見えていなかったり聞こえていなかったりすることでも、その「気」を感じ取れるのだと改めて思った。それがプロなんだと。
洋服の場合でも同じようなことはある。ハンガーに何気なく掛かっている服からオーラを感じる時が有るのだ。「モノ」であるはずの服が、あたかもその作った人の声が染み込み、浸透して語りかけてくる時が有る。
音楽と服、表現方法は違っていても、空から静かに降りてくるものを受け取り、大切にそして大事に繋ぎ合わせ、人の心に刺青を刻んでいく。ふわっとしたキャラクターの彼女だが、その透き通った目には強い意志が有り、その強い意志こそが彼女の音楽であることと感じた。(ht)