GOOD SWELL JOURNAL /

長い夜に

ずっと朝がきてほしくない夜もあるし、うけいれたくない夜もある。あたりまえだが、だれにでも1日の終わりに必ず夜はやってくる。
だったら夜をたのしもう。たぶん、そんな思いから『Late Night Tales』(以下LNT)のシリーズが立ち上がったのだろう。いろいろなミュージシャンがLNTをキ-・ワードに選曲したコンピレーション・アルバムだ。今までに、フレーミング・リップス、ジャミロクァイ、ファットボーイ・スリムなどのものも出ている。
このアルバムはここのところ気にいっているテキサス州を拠点に活躍するオルタナ・ロックのミッドレイクの連中が選曲したものだ。ここに集められたミュージシャンはボブ・カーペンター、フェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパン、ザ・バンド。なるほどミッドレイクの音には70年代のテイスト、それもトラディショナルに根ざした音がちらつくわけがわかった。
そんな中の1曲にニコの「ジーズ・デイズ」があった。ヴォーグ誌のモデルからミュージシャンに転身。ウォーホール・ファクトリーやヴェルヴェット・アンダーグラウンドと活動をともにし、88年、自宅の近くで自転車の転倒事故により亡くなった、あのニコ。
完全にではないが、ここのところ、彼女のことを忘れていた。貴族、なかなか出会えないが、彼らの退廃を想起さてしまう彼女の声は、しかし、どこまでも高貴でもあり、たえずメイン・ストリートに穏やかではいれない空気を送りこむミューズ。この気持ちは今も変わらなかった。
「ジーズ・デイズ」は作曲者ジャクソン・ブラウンやグレッグ・オールマン、エリオット・スミスらの歌でも親しんできたが、やはりニコのヴァージョンがずばぬけている。懐かしさということではなく、抑制のきいたストリングスのアレンジに寄りそう彼女のヴォーカルは40年の時を超えても、しっかり<いま>のもので、これからもずっと聴いていたい1曲だ。CDの棚をあさり、彼女のソロ、ヴェルヴェットとのアルバムをひっぱりだす出す夜が続いてしまっている。
あたらしいものではエスパーズの「キャロライン」かるいアシッド・フォークといえばいいだろうか。ヴォーカルのメグ・ベアードのビブラートはすこしかすれぎみだが、フェアポートのサンディ・デニーと通底するものがある。ふたりの声は聴くものの体の中心にまっすぐ向かい、こちらになんの付加もかけずにはいり込む。そして、時間がたつにつれ、体の中心から表面のほうへゆっくり鎮静の波がひろがってゆく。オーバーないいかたになってしまうが、こういうことが声の力なのだろう。 このアルバムでサンディとメグの歌声を聴いてほしい。そこには穏やかな夜がみんなを待っている。(h.y)