GOOD SWELL JOURNAL /

逗子の豊泳会

7月になると逗子海岸には色々な海の家が次々と建つが、その中で葉山よりの一番端に 「豊泳会」と看板のある質素な小屋がある。「豊泳会」とは昭和21年に日本遊泳術研究会の平野豊師範によって設立された市民水泳団体だ。戦後の復興と平和に貢献する為に発足したこの団体は「市民皆泳」という設立当時の方針を受け継ぎ、夏休みの間小学生を対象に逗子海岸で水泳講習会を行っている。水泳講習会といってもその目的は波や潮の流れがある海でも泳げることで、最終日には真名瀬港から逗子海岸までの3.5kmの遠泳で締めくくられる。
約一週間その講習会に参加するのは地元の子供達。海のそばで育った子供達といっても皆泳げるわけではなく、プールには慣れていても海では少し勝手が違うのか最初の数日間は半泣きで練習をしている子もいる。初めの数日は海に慣れ、次に足の着かない遊泳区域の中を、それから遊泳区域の外まで、そして遠泳の前々日、前日となると逗子湾内をかなりの距離泳げるようになる。はじめの頃は泣き面の子供達も日焼けと自信で凛々しい顔立ちとなって行きそして最終日を迎える。
海で長い距離を泳ぐことに慣れてきたとはいえ小学校低学年の子供達にとって3.5kmという距離は、未知の世界である。遠泳の朝、皆緊張感と恐怖心を顔に浮かべながら隊列を組み指導者の注意を聞いている。そしていよいよ周りの歓声と助手の人達の「そーれ!」という勇ましい掛け声と共に隊列の先頭から順番に海に入り泳ぎ始める。ゆっくりとしっかりと自分の力だけで。
あれよあれよという間にその隊列の姿は見えなくなり、不安そうな顔で見守っていた大人達も到着地である逗子海岸に移動を始める。
約2時間半後、子供達の隊列は併走する助手のボートと共に逗子海岸はるか遠くに姿をみせた。そして徐々に方向を変えゴールのある海岸に向かって泳ぎ始める。その姿はどんどんと近づきひとりひとりの表情までが見えてくる。遊泳区域のブイを過ぎ背が立つ波うち際のゴールまで泳いできた子供達の顔には喜びと安堵、そしてひとつのことを成し遂げた自信に満ち溢れとても輝いていた。
この遠泳は子供達にかけがいの無い貴重な体験になったと思う。将来いつかふとした時にあの時の海の温度、色、景色、周りからの励ましの声、そして自分の力で泳ぎきった自信を思い出してくれるだろう。
それと同時に周りで見ていた僕たち大人にも忘れていた大切なことを思い出させてくれた。子供達と同じようにゆっくりとしっかりと自分の力で最後まで泳ぐということの大切さを。(ht)