GOOD SWELL JOURNAL /

小さな花

1週間の出張から戻った次の朝、ベランダに出るとひとつの鉢に赤い小さな花が咲いていた。5、6年前に伊豆のお蕎麦屋さんでもらった植物で、上手く育たず悪戦苦闘していたものだった。育て方を調べたり、植え替えをして肥料をあげたり、置く場所を色々変えてみたりもしてみたが、お蕎麦屋さんで見たときの生き生きとした姿とは違ったものになっていた。毎年春には舌のような形をした新しい葉がでてくるのだが、どんどん大きくなって最後にはウサギの耳のように元気なく垂れ下がってしまう。
「これ、エキゾチックな花が咲くんですよ。」
蕎麦屋の娘さんが教えてくれたその言葉がいつも頭の中に引っ掛かりながら、ずっと自分の植物を見続けて来た。今年は春先から今までよりも日当りの好いところに置いて、水やりも少し多めにしてみた。それでも毎年のように春先には新しい葉っぱは出てきたが、僕が出張に出る1週間前には花が咲く気配などまったくなかった。その植物に突然花が咲いたので、思わず声を上げて喜んでしまった。 俄然、その鉢植えに愛着が湧いてきて、もう一度詳しくその植物について図鑑で調べてみて唖然とした。 植物の名前は「ハエマンツス コッキネウス」と呼ばれ「マユハケオモト属、ヒガンバナ科」のアフリカ南部原産の植物だった。今まで僕が思っていた植物とは全然違っていた。
「あれれ。」
「どこでどう勘違いしていたのだろうか?」
「それじゃ花も咲かないはずだわな。」
今までずっと違う名前で呼び続けていたわけである。それでも辛抱強く育って小さな花が咲いたことで、やっと謝罪の気持ちも含め心が通じ始めたように思えた。(ht)