GOOD SWELL JOURNAL /

冬のもの パパのセーター

朝早くから仕事場で作業をやっていると、集中力の限界を超えてしまうことがある。そんな時は散歩がてらおひるに出かけ、クールダウン。そして、まだもう少し歩いていたい、という場合にかなりの確立で寄るのが、某古道具屋。この店は雨でないかぎり歩道を挟んだ店先にも品物が山高く積まれており、素通りはなかなか困難なのだ。しかし、こんなもの誰が買うのだろうというものばかり。そんなわけだから値段も安く、ふたつみっつ買ったところで私の財布でさえ全然痛まないのが、なんといっても最大の魅力なのです。
かねてから乾物をひとところに収納できる容器を探していた。ちょっと大きすぎるような気もするが、ここにありました。乾物をあまりぎゅうぎゅうには詰めたくないから、大きいぐらいがちょうどいい。。
この箱はお茶屋さんでストックを入れておくためもので内張りにブリキがきっちりはられ掃除がしやすいし、往時が偲ばれるグリーン色で印刷された<茶>の文字がなんともいい。 あちらこちらにホームレス状態であった昆布・鰹節・干し椎茸・煮干し・アゴ干し・切り干し大根・麸などを集め、ていねいに収めた。箱の底辺は50×36センチ、高さ40センチの十分過ぎる大きさに配置された乾物は誰が見たって枯山水。銀色にそりかえる玉砂利、否、煮干し。ソリッドな佇まいの松、否、アゴ干し。白く粉ふく昆布、なんとも美しいではないか。狭い我が家に庭園が出来てしまった。
そんな悦に入っていると、ガール・フレンドが「向こうに積んである割とジャマな本が30冊ぐらい優に入るんじゃない」と水を差す。口には出さなかったが、「枯山水に水は禁物ですよ」辛辣をオブラートで包んだ<割とジャマ>には、気持ちをくじかれそうになってしまった。でも、買ってしまたんだからねー、でフェイドアウトするしかない。
思わず出来てしまった庭園。愛でるぶんにはいいが、その収納場所を台所に確保する困難な現実にぶちあたった。「ホラ、それ、どこに置くの?」といった視線が向こうのほうにある。過去の経験をたどれば、この状況を乗り切るチカラは私にはなく、あえなく庭園の撤収となり、乾物は元のホームレス状態になってしまった。
しかし、捨ててしまうことなどできそうにない。乾物入れとしては大きすぎるが、よし、買おうとひと押ししたのは<茶>の文字の反対面にある<冬のもの パパのセーター>の書き込みだった。役目を終えた箱はお茶屋さんの家庭か、また別の家庭で使われていたかはわからないが、この書き込みからはあたたかい家庭の空気が伝わってきた。書いたのは奥さんだろうか?娘さんだろうか?娘さんだとしたら、中学2年生?私立?公立?髪は長いのだろうか?いやいや、やっぱり奥さんではないだろうか?奥さんだったらーーーー。いかんいかん。これではまるでストーカーではないか。この書き込みには、あわやストーカーになるほどの魅力があるのだ。
そうだ。このあたたかさはありがたくいただこう。桜が散れば衣替えの季節。箱に書くフレーズはもう決まった。<冬のもの ふたりのセーター> (hy)