GOOD SWELL JOURNAL /

マウイ島に吹くルイの風

まず、このジャケット・ビジュアルを眺めてほしい。よくある観光地のパンフレット写真でありながら、そこによくありがちな沈鬱さがまったくない。眺めていると、こころがスーッと洗われてしまった。そう、マウイ島のリゾート・ホテル、マウイ・サーフ・ホテルの全景。このアルバムのために撮りおろしたのか、そこらにあった写真をちょっと拝借したのかはわからないが、これほどにビーチの心地いい風をフィックスした写真を過去に見たことがない。
波の上にシンプルにルイの文字。ハワイのシンガー・ソング・ライター、ルイ・ウィリアムスのアルバムだ。彼は70年代にこのホテルのバー・ラウンジで6年ほど観光客を相手に演奏していたと聞いている。リゾート・ホテルのバー・ラウンジの演奏家は日中のたわむれに疲れたカップルや家族たちを、その土地にゆかりのあるものや、誰でもが知っている口当たりのいいナンバーで彼らをやさしく包み込む。ハワイに限らずリゾート・ホテルのバー・ラウンジはそうした機能が求められる場所である。ここで彼の声と演奏に体をゆだね至福の時をあじわったにせよ、ルイ・ウィリアムスというミュージシャンの名前は記憶に残っていないのではないだろうか。
ハワイでは70年代半ばぐらいからカラパマなどをはじめルーツ・ミュージックを深く受けとめ、ハワイ人のあたらしい音(アイデンティティーともいえる)を創りだすハワイアン・コンテンポラリー・ミュージックが頭を持ち上げはじめた時期である。それはただ観光客に消費されるばかりのリゾート・ミュージックからの脱出でもあった。
このアルバムはそんなハワイのミュージック・シーンの中で1978年にリリースされた。まず1曲目彼のオリジナル「カアナパリ」を聴いてほしい。イントロ・ギターのカッティングにはメローでモダンな軽いグループ感があり、こんな曲を聴きながら日の高いうちからドライ・マティーニなんかをやったら、さぞかし美味いのだろうと、がらにもないことを思ってしまう。軽いグルーブ、それは心地いい風である。そんな曲の先輩格としてジョージ・ベンソンの「ブリージン(Breezin’)」(76年)が思い出される。彼自作の曲はもちろんのこと、トラディショナル・ナンバーにおいても、ただ伝統をなぞったものではなく、彼のオリジナルティーを十分に浴びている。彼のオリジナリティーとは聴くものに負荷をかけない心地いい風のことである。
ハワイアン・コンテンポラリー・ミュージックという状況下にありながら、このアルバムはリゾート・ミュージックの範疇にぴったりおさまる。が、ただ観光客に向けられたものではないことは聴けばすぐにわかる。ジャケットはルイのリゾート・ミュージック宣言の挨拶状で、そこらにあったものを拝借したのではなく撮りおろしであろう。このアルバムに吹く心地いい風を美しいまでに結実させている。エンディングは映画『ブルー・ハワイ』でプレスリーが歌った「ハワイアン・ウェディング・ソング」ルイの風に吹かれてみてほしい。(hy)