GOOD SWELL JOURNAL /

ビル・モンローの子供たち

いつだったか、ニッケル・クリークの解散というニュースを聞いたが、ニューアルバム(2014年リリース)が出ているではないか。これは再結成ということだろうか。うれしいかぎりである。このバンドはリーダーのクリス・シーリー(フラッドマンドリン)、ショーン(ギター)とサラ(フィドル)・ワトキンス兄妹の3人からなるブルーグラスバンド。このアルバムはその3人にウッドベースを加えただけのいたってシンプルな構成だ。ブルーグラスといっても、それは旧態依然をしたものではなく、フォーク、ケルト、ジャズなどの音楽に今日的なヒップな感じも加味しているが、あまり小細工をせず直球勝負。その直球さ加減がとにかく気持ちいい。そして、ブルーグラスの醍醐味はなんといっても個人のインプロビゼーションにあり、このあたりは2曲目の「ディスティネーション」と8曲目のインストルメンタル「エレファント・イン・ザ・コーン」で十二分に味わえる。
ブルーグラスの原型はアメリカの開拓時代、アパラチア山岳地方にアイルランドやスコットランドから入植者たちのルーツミュージックとアフリカから来た黒人たちの音楽の混ざり合いから生まれたものだ。戦前、そんな音楽にポピュラリティーを持たせ世の中に広めたのがビル・モンローだ。彼のバンド仲間であった天才的な早弾きバンジョー奏者のアール・スクラッグスが、あまりにも有名で、ブルーグラスといえばバンジョーとなってしまい、陽気な音楽と思ってしる人たちが一般的である。確かに陽気というのはひとつの側面であるが、その本質は哀愁(懐かしみ)にあると私は思っている。つまり親から子供たちへ、そして、その子供たちからそのまた子供たちへと語り継がれる開拓時代の物語の中にある哀愁。この哀愁を表現するにはフィドルの存在は欠かせない。 それにしても開拓時代からの音楽が連綿といまに繋がっているところに、アメリカン・ミュージックの懐の深さがある。このバンドはその見本みたいなものだ。モンローさん、ご心配なく、あなたの子供たちはすこぶる元気です。 クリスの鼻にかかったややしょぼくさいヴォーカルもなかなかすてがたい味だが、「ルカ」でおなじみのスザンヌ・ベガの声に陽のひかりや風のにおいがかぶさったサラのしなやかなヴォーカルをじっくり聴いてほしい。「ディスティネーション」で、その声はどこまでも高く高く舞い上がり、ラストの「フェア・イズ・ラブ・ナウ」では哀愁と至福の間を自由に行き来する彼女のフィドルの音色とともに私たちをやさしく包みこむ。
しかし、リーダーのクリスのことも少しは触れなければならない。彼は別のユニットのパンチ・ブラザーズでも頑張っている。もうすぐ公開される60年代のフォーク・シーンを題材にしたコーエン兄弟の映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のサウンド・トラックにパンチ・ブラザーズの曲が使われている。それから、なんといま来日中のボブ・ディランの未発表曲「フェアウェル」も聴ける。是非、映画館で。(hy)