GOOD SWELL JOURNAL /

アランセーターを探して

今年の1月初めにアイルランドを訪れた。今では少なくなってしまった全て手作業で編まれているアランセーターを探しに行くことが目的だった。以前より魅力を感じていたアイルランドをはじめて訪れるということで、期待に胸を膨らます一方、二日間という短い日程の中で自分のイメージしていたモノに巡り会えないのでは、という不安を感じながらの旅だったが、アイルランドは想像していたより暖かく、厳しい寒さを覚悟していた僕は少し拍子抜けした。
まず一日目はアイルランドの手工芸品が多数出展しているクラフトフェアーを歩き回ってみた。ここはガラス工芸、織物、木工等、この国を支えている産業が一年に一度集まる展示会だ。探しているものを見つけるには一番の近道といえる。しかし、いくつもの出展者の中からも思い描いているセーターは見つけられなかった。ハンドニットと表示しているアランセーターは数多くあるのだが、自分の頭の中にあるアランセーターとはどれも違っていた。何度となく会場を行き来してみたがやはり同じことだった。
結局何の収穫も無く一日を終え、ホテルに戻りギネスビールを飲みながら次の日のことを考えてみた。そして行く直前にアランニットを探しているなら訪ねてみるといいと知人から渡されたメモを取り出した。そのメモにはCLEO Kitty Joyce そして店の住所が書いてあった。翌日、ダブリン市内の静かなエリアにあるクレオというその店を訪ねてみた。クレオの店内は油抜きされていないウールの独特な匂いがし、棚にはぎっしりとセーターが積まれていた。そしてオーナーの女性、キティー・ジョイスが店の奥から顔を出した。しばらく店内を見渡し、彼女の母親の時代から70年近く続いているこの店の歴史を肌で感じ、深く深呼吸をしてからひとつのセーターを棚から取り出した。
それはずいぶん昔に父親が、どこかのお土産に買ってきてくれた、重く、硬く、独特な匂いがする着心地の悪そうなセーターを思い出させた。そして探し求めていたアランセーターだった。思い描いていたものと出会えた嬉しさから少し興奮気味に、お気に入りを探し始めたぼくに、キティーも店頭に出ているだけでなくストックからもかなりの数のセーターを持ってきて、親切に一緒に探し始めてくれた。すべてサイズが少しずつ違うハンドニットは合うものを探すのに苦労した。やっとのことで1枚を見つけ会計をしていると彼女は僕の名前を聞いてきた。自分の名前を答えると彼女は微笑みながら、「イニシマンのタ-ラックが言っていたハンドニットを探している日本人というのは、あなたのことなのね。昨夜、たまたま、彼と話している時にその話題になったのよ。私で良かったら、お手伝いできるわよ。」
彼女の突然の話に驚きつつも、このアイルランドの旅はこれがすべてで、そして、始まったと思った。店を出る時にまた会うことを約束し、握手をした。
彼女の手はとても暖かく、すべてのものを包み込むような優しさがあった。 (ht)